注意欠如・多動性障害

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【ADHDとは】

注意欠如・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder : ADHD)という、不注意、多動性、衝動性などが特徴の病気があります。ADHDという病名は知られるようになって来ていますが、自分が病気だと気付いていない人、診断されていない人、どこの診療科にいけばいいのかわからないで困っている人、精神科や心療内科に行くのに抵抗感があって行っていない人、そもそも何が辛いのかわからなくて困っている人も含めると非常に多くの潜在患者さんがいると言われています。小児の頃は行動が多動なので見た目的にもわかりやすいのですが、大人になると行動の多動さは目立たなくなり見た目の症状は目立たなくなるのですが、不注意さ、脳内の多動性、衝動性は残ることが多く、本人は深刻に困っていることが多いです。

【ADHDの特徴】

頭の中が整理されない感じ、モヤモヤと雲が掛かっている感じ、注意がそれやすい、落ち着かない、飽きっぽい、興味が移り変わりしやすい、一番やりがいのあるところが終わると興味を失ってしまう、色々なものに手を出すけど中途半端に終ってしまう、一つ自分が興味を持ったことには人一倍集中出来る、忘れ物が多い、よくものをなくす、締め切りが守れない、締め切り直前に気付いて慌てる、時間管理が苦手、順番を待つのが苦手、計画を立てるのが苦手、一応計画は立てるのだが途中で続かない、ケアレスミスが多い、片付けが苦手、部屋が常に散らかっている、転職が多い、今の仕事でうまくいかないことが多いのでもっと自分にあった仕事があるはずだと思う、過干渉に他人の話に首を突っ込む、学校を休学、停学、退学した、色々な資格勉強に手を出したが最後まで続かない、衝動的な恋愛、結婚、離婚、もっと面白いことがないかと探す、好奇心が旺盛、ルーチンワークが苦手、同じことの繰り返しの作業や仕事にすぐに飽きてしまう、もっと工夫した独創的なやり方を考えたり見つけるのが好き、突然アイディアが湧いてくることがある、何かを企画するのが好き、面白い企画を思い付いたらあまり考えずにすぐ実行する、突発的な旅行、突発的な起業、やりながら考える、学校でイスに座っているのが苦手だった、おとなしく出来ない子供だった、衝動的な買い物、浪費、クレジットカードを飛ばしたことがある、お金の管理が苦手、ほしいものがあるとすぐに買ってしまう、貯金が出来ない、などがADHDに特徴的な症状です。

ADHDの診断基準ではありませんが、例えばこのイーライリリー社が作っているADHDの体験談やマンガ、就活生のビデオを見て、共感出来るかどうか、苦労がわかり過ぎて泣けるかどうか、は自分もADHDであるかどうかの非常に参考になる目安になるかも知れません。「ADHDの人には泣ける動画」、逆に「ADHDでない人には泣けない動画」と言っても過言ではありません。

http://adhd.co.jp/otona/shoujou

http://adhd.co.jp/otona/shoujou/animation.html

ちなみに私もADHDっぽいところは大いにあって、小学校、中学校と昔からずっと問題児で怒られっぱなしであったり、大学でもよく課題の締め切りを忘れてしまったり、興味が様々なことに拡散してしまい手当たり次第に色々な学外活動に手を出したり、立ち上げは楽しいのにある程度出来上がってしまうと途中で飽きて中途半端なところで興味を失ってしまったり、社会人になった後も病院で組織で働くということに馴染めずに苦労したり、失敗ばかりの人生だったのですが、この動画は本当に自分のことのようで涙が止まりませんでした。ADHDという病気があるということを知るまでは、一生懸命頑張っているのにいつもうまくいかなくて、みんなが普通に出来ていることが自分には出来なくて、何がいけないのかわからない、そもそも何が辛いのかわからなくてそれが一番辛い、というのが一番合っている表現かも知れません。とにかく本人は辛くて困っているのですが、周囲から見るとあまり辛そうに見えないところがこの病気の本当の辛さだと思います。ぜひ一度ご覧ください。逆にこの動画を観てもなんとも思わない、おっちょこちょいなバカなやつだなー、という感想を持つ方は、勿論これだけで診断は出来ませんが、ADHDの可能性は低いと言えるかも知れません。


【ADHDの診断基準】

アメリカ精神医学会「精神疾患の分類と診断の手引き第5版」(DSM-V)に、ADHDの診断基準があり、日本でも多くの場合これに基づいて診断をします。少し長くなりますが、日本語訳を引用します。A~Eまでの項目を全ての項目を満たすかどうかですが、ポイントは、A(1)の不注意基準、A(2)の多動性および衝動性基準、を両方満たすこと、Dその症状によって日常生活で困っていること、です。厳密に診断をということであれば一度専門の精神科医にご紹介し、正確な診断を下してもらっています。

A、(1)および/または(2)によって特徴づけられる、不注意および/または多動性および衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっているもの:

(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的、職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである:

注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。

(a)学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確である)。

(b)課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)。

(c)直接話しかけられた時に、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意を逸らすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)。

(d)しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中でいなくなる、また容易に脱線する)。

(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)。

(f)精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、青年期後期および成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、際う、またはいやいや行う。

(g)課題や活動に必要なもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう。

(h)しばしば外的な刺激(青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐに気が散ってしまう。

(i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年期後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい。

(2)多動性および衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的、職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである:

注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。青年期後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。

(a)しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする、またはいすの上でもじもじする。

(b)席につていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で、自分の場所を離れる)。

(c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)。

(d)静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない。

(e)しばしば「じっとしていない」、またはまるで「エンジンに動かされているように」行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる、他の人達には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。

(f)しばしばしゃべりすぎる。

(g)しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう、会話で自分の番を待つことができない)。

(h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列にならんでいるとき)。

(i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、または活動に干渉する:開いてに聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない、青年または成人では、他人のしていることに口出したり、横取りすることがあるかもしれない)。

B、不注意または多動性および衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた。

C、不注意または多動性および衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場:友人や親戚といるとき、その他の活動中)において存在する。

D、これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある。

E、その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中のみに起こるものではなく、他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒または離脱)ではうまく説明されない。


【ADHDの治療】

ADHDの診断においても治療においても重要なことはその症状が原因で本人が日常生活で困っているかどうかです。見方を変えれば、不注意は大人になると後天的にある程度スキルトレーニングによってカバー可能であることが多いのと、多動性は「行動力がある」「実行力がある」「社交性がある」、衝動性は「臨機応変に対応出来る」「創意工夫がある」「意思決定が早い」など、仕事によっては有用なこともあります。世間が病気だと言うかも知れませんんが、私は才能だと思います。営業マン、ベンチャー企業の経営者、芸術家、音楽家、スポーツ選手、クリエイターなどは障害ではなく、個性として強みを活かして社会的に成功している人もいます。有名なのは、発明家でゼネラルエレクトリック社の創業者であるトーマスエジソン、物理学者で相対性理論の発見者であるアルバートアインシュタイン、芸術家で生物学から建築学まで多彩な才能を発揮したレオナルドダヴィンチ、薩長同盟や明治維新の立役者である坂本龍馬、アップル創業者のスティーブジョブズなど、挙げられています。衝動性、過干渉、細部への病的なこだわり、情報感度の高さ、興味や関心の広さ、意思決定のスピード、など時として強力な強みとなることもあるんだなあと実感します。確かに官僚的な組織、ルールの多い組織の中ではその独創性や創造性を活かせないかも知れませんが、世の中は適材適所です。必ず才能を活かせる場所はどこかにきっと見付かるはずです。頑張りましょう。生きにくい社会を共に変えていきましょう。ソーシャルスキルトレーニングと言って、不注意の症状に対しては、持ち物は出来るだけ少なくする、やるべきことはチェックリストを付ける、仕事では計画的な人とパートナーを組む、適した仕事、理解してもらえる職場を見付ける、友人や家族に苦手なところは手伝ってもらう、など工夫の余地は大いにあります。疾病の理解と認知行動療法としては、少なくともADHDという病気があり、どういう症状があり、どういうことが得意で、どういうことが苦手なのか、ADHDの症状の特徴を理解するだけでも、本人は何がいけなくて今までずっと苦労していたのか、どうして一生懸命頑張っても当たり前のことが出来なかったのか、その辛さの原因がわかり、それだけでもかなり精神的に和らぐものです。以下、それでも日常生活で困っている場合に本人や家族と相談しながら薬物治療を開始していきます。

・ストラテラ(アトモキセチン)、ADHD治療薬です。ノルアドレナリントランスポーターに作用し、ノルアドレナリンとドパミンの再取込を阻害、ADHDの原因の一つと言われる前頭前野におけるドパミン不足を改善し、ADHDの症状を軽減させると言われています。まずはこちらの薬を使うことが多いです。

・コンサータ(メチルフェニデート徐放製剤)、ドパミントランスポーターに作用し、ドパミンの再取込を阻害、ADHDの症状を軽減させます。前頭前野だけでなく、線条体や側坐核と言った依存性の原因となる部位や中枢神経刺激作用のため、処方出来る医師や医療機関が登録制で厳密に管理されており、一般の医師は処方出来ません。リタリン(メチルフェニデート)はその依存性と乱用が過去に問題となり、ADHD治療薬としては処方出来なくなりました。どちらもお茶の水内科では処方出来ません。

・柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、抑肝散、気の高ぶりを鎮める漢方はADHDの症状の緩和に有効なことがあります。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

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