抗菌薬の適正使用

【簡単に言うと】

抗菌薬(いわゆる抗生物質)の不適切な使用が問題になっています。抗菌薬は細菌性の感染症に対してのみ効果があり、細菌以外の感染症には無効です。例えば風邪やインフルエンザはウイルス性の感染症であり抗菌薬が無効である疾患の代表です。当院では、医師の診察の結果、細菌性の扁桃炎や細菌性の肺炎など、細菌性の感染症であると医師が診断し、抗菌薬を使っての治療が必要であると医師が判断した場合のみ、必要十分な抗菌薬を必要十分な量、処方しています。細菌性の感染症以外に抗菌薬を処方することは無効であるばかりではなく、地域に耐性菌を生み出し地域の感染症治療を困難にするなど有害ですらあります。抗菌薬の適正使用に何卒ご理解とご協力ください。

【抗菌薬とは】

人体に対して病原性のあるものを総称して病原体(Pathogen)と言います。主な病原体として、ウイルス(Virus)、細菌(Bacteria)、真菌(Fungus)、寄生虫(Parasite)の4種類があり、やや特殊な病原体として、マイコプラズマ(Mycoplasma)、クラミジア(Chlamydia)、リケッチア(Rickettsia)、スピロヘータ(Spirochete)、プリオン(Prion)があります。ウイルスとプリオン以外の病原体を微生物(Microbe)と総称し、病原性の微生物に対して効果のあるものを抗微生物薬(Antimicrobial Drugs)と総称します。具体的には、細菌に対して効果のあるものを抗菌薬(Antibacterial Drug)、真菌に対して効果のあるものを抗真菌薬(Antifungal Drug)、寄生虫に対して効果のあるものを抗寄生虫薬(Antiparasitic Drug)と言います。マイコプラズマ、クラミジア、リケッチア、スピロヘータに対しては一部の抗菌薬が有効です。結核菌(Mycobacterium Tuberculosis)はマイコバクテリア(Mycobacteria)と呼ばれるグループの細菌の一種ですが、結核は治療法として確立されたものがあるため抗結核薬(Antituberculous Drug)として別個に扱います。いくつかの特定のウイルスに効果があるものが抗ウイルス薬(Antiviral Drug)です。プリオンに対して有効な薬剤はまだ発見されていません。抗微生物薬の中で生物が生成するものを特に抗生物質(Antibiotics)と呼びます。抗微生物薬の中で細菌に対して効果のあるものが抗菌薬(Antibacterial Drug)ですので、抗菌薬と抗生物質はほとんど似た意味で使われることが多いですが、厳密に言えば少し違います。

【抗菌薬の分類】

抗菌薬には様々な種類があります。抗菌薬には様々な切り口による分類があります。上図のような作用機序による分類、ベータラクタム系抗菌薬(Beta Lactam Antimicrobial Drugs)とそれ以外、殺菌性抗菌薬(Bactericidal Antimicrobial Drugs)と静菌性抗菌薬(Bacteriostatic Antimicrobial Drugs)、時間依存性抗菌薬(Time Dependent Antimicrobial Drugs)と濃度依存性抗菌薬(Density Dependent Antimicrobial Drugs)、経口薬か静注薬か、などの分類が臨床上重要です。下記、代表的な抗菌薬をまとめました。

・ペニシリン(Penicillin)系抗菌薬、サワシリン(アモキシシリン)、オーグメンチン(アモキシシリンクラブラン酸)、ユナシン注(スルバクタムアンピシリン)、ゾシン注(タゾバクタムピペラシリン)、ペニシリンG注(ベンジルペニシリン)、等

・マクロライド(Macrolide)系抗菌薬、クラリス(クラリスロマイシン)、ルリッド(ロキシスロマイシン)、ジスロマック(アジスロマイシン)、等

・ニューキノロン系抗菌薬、クラビット(レボフロキサシン)、シプロキサン(シプロフロキサシン)、、ジャニナック(ガレノキサシン)、アベロックス(モキシフロキサシン)、グレースビット(シタフロキサシン)、等

・セフェム(Cephalosporin)系抗菌薬、セフゾン(セフジニル)、メイアクト(セフジトレンピボキシル)、フロモックス(セフカペンピボキシル)、セファメジン注(セファゾリン)、ロセフィン注(セフトリアキソン)、ファーストシン注(セフォゾプラン)、スルペラゾン注(セフォペラゾンスルバクタム)、マキシピーム注(セフェピム)、等

・カルバペネム(Carbapenem)系抗菌薬、メロペン注(メロペネム)、チエナム注(イミペネムシラスタチン)、フィニバックス注(ドリペネム)、等

・アミノグリコシド(Aminoglycoside)系抗菌薬、ゲンタシン(ゲンタマイシン)、ハベカシン(アルベカシン)、等

・リンコマイシン(Lincomycin)系抗菌薬、ダラシン(クリンダマイシン)、等

・ホスホマイシン(Fosfomycin)系抗菌薬、ホスミシン(ホスホマイシン)

・テトラサイクリン(Tetracycline)系抗菌薬、ミノマイシン(ミノサイクリン)、ビブラマイシン(ドキシサイクリン)、等

・グリコペプチド(Glycopeptide)系抗菌薬、バンコマイシン(バンコマイシン)、タゴシッド(テイコプラニン)

・オキサゾリジノン(Oxazolidinone)系抗菌薬、ザイボックス(リネゾリド)

・ST(Sulfamethoxazole Trimethoprim)合剤、バクタ(スルファメトキサゾールトリメトプリム)

他にも多数の抗菌薬、抗結核薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬がありますが、感染症専門医の領域になりますので割愛します。

【抗菌薬の適正使用とは】

上記のように、抗菌薬は細菌に対して効果のある薬ですので、「細菌性の感染症」に対して使います。抗菌薬は細菌性の感染症以外には効果がないので、細菌性の感染症以外に抗菌薬を使うことは抗菌薬の不適切な使用です。具体的には、風邪やインフルエンザは「ウイルス性の感染症」であり、抗菌薬が無効である疾患の代表です。具体的には、下記のように抗菌薬による治療が必要である疾患、抗菌薬が必要でない疾患と区別して治療していくことが重要です。

一般的に、抗菌薬による治療が必要である疾患:

・肺炎→http://ochanai.com/pneumonia

・マイコプラズマ→http://ochanai.com/mycoplasma

・百日咳→http://ochanai.com/pertussis

・クラミドフィラ→http://ochanai.com/chlamydophilapneumoniae

・扁桃炎→http://ochanai.com/tonsillitis

・副鼻腔炎→http://ochanai.com/sinusitis

・膀胱炎→http://ochanai.com/cysititis

・ピロリ菌→http://ochanai.com/helicobacterpylori

など

一般的に、抗菌薬が必要でない疾患:

・風邪→http://ochanai.com/cold

・インフルエンザ→http://ochanai.com/influenza

・胃腸炎→http://ochanai.com/gastroenteritis

・咳喘息→http://ochanai.com/coughvariantasthma

・帯状疱疹→http://ochanai.com/herpeszoster

・麻疹→http://ochanai.com/measles

など、

【さらに詳しい説明】

・風邪に抗菌薬は無効です。無益であるばかりか有害ですらあります。

・なぜ風邪に抗菌薬は無効かと言うと、風邪はウイルス感染症であり、抗菌薬は細菌感染症に対して効果があり、抗菌薬はウイルス感染症には効かないからです。

・風邪に抗菌薬は効かないだけで特に害もないなら念のため出したほうがいいのではと思われるかたもいるかも知れませんが、抗菌薬の乱用は耐性化と言って後々本当に抗菌薬が必要な時に困ることになります。抗菌薬を乱用すると耐性菌と言って、抗菌薬が効かない菌が出てきてしまいます。赤ちゃんの頃から抗菌薬を使い過ぎると、耐性菌ばかりになってしまい、細菌性の肺炎を起こして本当に抗菌薬が必要な時に使える抗菌薬がなくなってしまいます。事実、既に耐性菌によって感染症の治療が困難になり、日本国内でも死亡事例が出て来ています。

・「熱が高いから抗生物質」「熱が下がらないから抗生物質」という考え方も間違いです。抗菌薬が必要な場合は細菌感染症であり、細菌性の扁桃炎、細菌性の副鼻腔炎、細菌性の気管支炎、細菌性の肺炎など細菌性の感染症の場合のみです。昔は日本の衛生状態もよくなく、発熱=多くは細菌感染症だったのかも知れません。細菌性の感染症には抗菌薬は効果的ですので、熱が出たら抗生物質という間違ったイメージが付いてしまったのかも知れません。今の親世代、その上の世代に多い考え方で、親に病院に言って抗生物質をもらってくるように言われて来ました、という人がたまにいますのでこのように説明しています。風邪はウイルス感染症であり、発熱があるかどうか、熱が下がらないかどうかと、抗菌薬が必要であるかどうかは関係ありません。

・抗菌薬を飲むと風邪が早く治った、という気がすることがありますが、これも間違いです。風邪の症状が酷くなって病院に受診するのは多くの場合だいたい風邪の3日目くらいであり、風邪というのはだいたいそれくらいの時期をピークに、その後症状は自然と改善に向かうものであり、ちょうど3日目くらいに病院に来て抗菌薬が出されると、その後症状の改善を「抗菌薬を飲んだ効果」「抗菌薬を飲んだから風邪が治った」と間違って認識してしまうことがよくあります。風邪は自然治癒することが特徴のウイルス感染症ですので、特に病院に来なくても何も薬を飲まなくても構いません。

・風邪症状で病院に来る意味は、一見風邪に見えるけど風邪ではない治療が必要な疾患をきちっと診断するためです。

・風邪をこじらせて二次的な細菌感染症を予防するために、抗菌薬を念のため出しておくことには予防的な意味があるんだと言われる方もいますが、いくつかの研究で予防的な効果もなかったことが証明されていますので、念のため悪化しないように予防的に抗菌薬を飲んでおこうというのも抗菌薬の正しい使い方ではありません。

・それでも、念のため、今回どうしてもと言われれば処方することは可能です。が、アルコール性の肝硬変でビール一杯飲んだからすぐに肝硬変になる訳でないように、肺癌で煙草を一本吸ったからすぐに肺癌になる訳ではないように、一回抗菌薬を飲んだからと言ってすぐに耐性化してしまう訳ではありませんが、安易に抗菌薬を飲むということが習慣付いてしまうことが問題であり、とりあえず抗菌薬という間違った習慣が何度も繰り返されると、耐性化によって本当に抗菌薬が必要な時に効く抗菌薬がなくなってしまい、将来的に自分や自分の家族が困ることになるということは覚えておいてください。

・熱が出たから抗生物質、風邪を引いたから抗生物質という間違った習慣を見直すことが大事であり、将来本当に抗菌薬が必要になった時に使える抗菌薬を取っておくということは将来の自分のためにも大切なことです。もし抗菌薬を間違って使っている人が周りにいたら正しい抗菌薬の知識を教えてあげましょう。

【抗菌薬の適正使用についてもっと知りたい】

抗菌薬についてもっと知りたい場合、多くの詳しいページがあります。抗菌薬について正しい知識を身に付けましょう。そして、抗菌薬についての正しい知識を回りにも広めましょう。このページはシェア自由ですので、ぜひ抗菌薬の適正使用について正しい知識を教えてあげましょう。

・お茶の水内科「抗菌薬の適正使用」→http://ochanai.com/antibacterialdrugs

・東京都立小児総合医療センター「抗菌薬を正しく使うために知っておきたいこと」→http://www.byouin.metro.tokyo.jp/shouni/kanja/koukinyaku.html

・東京都感染症情報センター「抗菌薬と薬剤耐性菌Q&A」→http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/resistant/qa/

・お薬Q&A~Fizz Drug Information~「抗生物質/薬学コラム」→http://www.fizz-di.jp/archives/1059489814.html

・メディカルノート「抗菌薬が必要なとき、必要ではないとき」→https://medicalnote.jp/contents/150722-000017-IOJPUWqa

・抗菌薬の適正使用に向けた8学会提言「抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship: AS)プログラム推進のために」→http://www.kansensho.or.jp/guidelines/1604_teigen.html

・感染症対策関係閣僚会議「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」→http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

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