心筋梗塞

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【急性冠症候群とは】

心筋梗塞とは心臓の血管が詰まって命に関わる病気です。心臓の血管が詰まってしまった急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction: AMI)と、まだギリギリ詰まってはいないけど今にも詰まりそうな不安定狭心症(Unstable Angina Pectoris: UAP)をまとめて、急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome: ACS)と呼びます。心臓の血管は、心臓に冠(かんむり)のような形で沿って走っているので、冠状動脈(Coronary Artery)と言います。心筋梗塞は動脈硬化が原因ですので、動脈硬化のリスクがある方に起こります。具体的に、動脈硬化リスクとは、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、肥満、心筋梗塞の家系などです。


【典型的な心筋梗塞らしさ】

血圧が高い、コレステロールが高い、煙草を吸っている、糖尿病と言われている、運動不足、動脈硬化のリスクがいくつもある方で、階段や坂を駆け上がったり、急に強いストレスや寒さを感じたりなど心臓に負担が掛かる時に、急な胸の圧迫感、締め付けられる感じが出現した時に、心筋梗塞や不安定狭心症といった「急性冠症候群らしい」と総合的に判断して診察していきます。


【心筋梗塞らしくない胸の痛み】

最近はインターネットで「胸が痛い」などと検索すると何でも「心筋梗塞や狭心症の疑いがある」とページがたくさん出て来ますし、テレビなどでは典型的な心筋梗塞の症状ではつまらないためか「心筋梗塞の意外な前触れ症状」などで番組が放送されることも多く、それを見て心配になって「心筋梗塞が心配」という理由で受診することが少なくありません。循環器内科医はその人が本当に「心筋梗塞らしい」かどうかを常に考えながら診察しています。医療に100%は存在しないという大前提の中で、勿論症状だけで全て決め付けることは出来ませんが、一般的にどういう胸の痛みが「心筋梗塞らしく」て、どういう胸の痛みは「心筋梗塞らしくない」のが知っておくことは非常に重要です。

逆に、次のような症状の場合は多くの場合「心筋梗塞らしく」ありません。

・胸の一点が痛い。(心筋梗塞の胸の痛みは胸全体が漠然と痛いという場合が多く、どこか一点が痛いと指差せないことが多いです。)

・ズキズキ、チクチク痛い。(心筋梗塞の胸の痛みは押されるような痛み、圧迫されるような痛み、重く締め付けられるような痛みと表現されることが多く、ズキズキ、チクチクという痛みは肋間神経痛や胸膜痛など心臓以外の痛みのことが多いです。)

・呼吸で痛みが変わる。(心筋梗塞の痛みの場合は呼吸とは特に関係ないことが多く、息を大きく吸った時に痛い、深呼吸で痛みが強くなるといった場合は、肺や肺の周りの胸膜などが関係した痛みのことが多いです。)

・食事で痛みが変わる。(心筋梗塞の痛みの場合は食事とは特に関係ないことが多く、食後に痛い、空腹時に痛い、お酒を飲んだ後、脂っこい食事を取った後に痛いなどの場合は、心臓ではなく、食道や胃や十二指腸、膵臓や胆嚢など消化器系が関係した痛みのことが多いです。)

・姿勢で痛みが変わる。(心筋梗塞の痛みの場合は姿勢の変化とは特に関係ないことが多く、横になった時に痛い、特定の姿勢を取った時に痛い、腕や肩を動かした時に痛い、などの場合は筋肉や骨格系の関係した痛みのことが多いです。)

・心臓に負担が掛かる時に症状が変化しない。(心筋梗塞の痛みの場合は、階段や坂を駆け上がったり、運動後など心臓に負担が掛かる動作で症状が変化することが多いです。また仕事中で普段と変わらないパソコン作業中の症状や、夜寝る前に安静で横になった時などで症状が悪化することは少ないです。安静時に起こる安静時狭心症や冠攣縮生狭心症といった病気もあるため、労作時の症状ではなく安静時の症状というだけで心筋梗塞を完全に否定することは出来ませんが、動脈硬化リスクが一つもない場合、まずは心臓以外の原因も同時に考えることが多いです。)

・若い方で動脈硬化のリスクが一つもない。(心筋梗塞は何らかの動脈硬化のリスクがある人で検診などで異常を指摘されていても放置している、何らかの生活習慣病を指摘されているという方がほとんどで、10代や20代で今まで検診等で何も異常を指摘されたことがない人が突然心筋梗塞を起こすことはほとんどありません。30代で心筋梗塞を起こした人は何名か診たことはありますが、高血圧や糖尿病を放置していたり、家族性の高コレステロール血症と言われていたり、大量の喫煙者であったりなど、何らかの明らかな動脈硬化のリスクがあった方がほとんどです。勿論動脈硬化のリスクが一つもないという理由だけで心筋梗塞を否定することは出来ませんが、まずは心臓以外の原因から考えていくことが多いです。)

・肋間神経痛っぽい。(動脈硬化のリスクが一つもない若い方で、仕事が忙しかったり、睡眠不足、生活が不規則で、ストレス、大きな仕事が終わった後に、肋骨の裏側あたりが時々ピリピリ、チクチク、ズキズキと鋭く痛むような症状の場合、多くの場合、色々検査をしても何も異常がないことがほとんで、肋間神経痛という診断になります。ストレスや疲れなどによる肋骨の裏側の神経の痛みが出ることはかなり多く、神経痛の飲み薬で自然とよくなります。)

・逆流性食道炎や胃炎と指摘されている。(逆流性食道炎の胸焼け症状や胃炎症状が胸の圧迫感、胸のつかえる感じと自覚されていることが多い。)

・咳が長く続いた後、喘息や咳喘息などと指摘されている。(肺の炎症が肺の外側を包み込む胸膜まで刺激すると胸の痛み症状になることがあります。)

・肩や首だけ痛い。(肩の痛みが心筋梗塞のサインなどとインターネットやテレビでセンセーショナルに書かれていることがしばしばありますが、他に症状がなくて動脈硬化のリスクが一つもなくて、本当に肩や首だけが痛い場合、本当に肩関節や頚椎の痛みのことが多いです。必要に応じて検査を行います。)

・歯や顎が痛い。(歯や顎の痛みが心筋梗塞のサインなどメディアで騒がれることはあります。確かに心筋梗塞の放散痛、関連痛という痛みが肩、首、歯、顎に出ることはあるのですが、まずは本当に歯や顎が原因の痛みであることのほうが多いと思います。症状や動脈硬化のリスクに応じて必要に応じて検査を行います。)

・不安発作、パニック発作っぽい。(強いストレスを受けた時、失恋、離婚、退職、大切な人を失って少し経った後など、何か大きなストレスイベントの関連が強いと考えられる場合、朝の通勤電車内、通学電車内だけ症状が起こる場合、浪人中、受験勉強中など、自覚の有無を問わず環境的に強いプレッシャーが掛かっている時、以前にも同様の不安発作、パニック発作を繰り返している場合など、一旦は抗不安薬などで経過を診る場合もあります。)

・動悸がする。(勿論心電図を取りますが、心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患ではなく、不整脈を疑って検査を進めます。)

・なんとなく心臓が心配。(循環器内科を掲げている以上仕方がないのですが、ほとんど検査しても異常が見つからないという場合はほとんどです。そもそも論として医療保険のルール上、なんとなく心配という理由だけでは保険適応にならないので、それでもどうしても心配という場合は心臓ドックを受診するという選択肢などがあります。)

他にも思い付いたら追記します。

以上のように「心筋梗塞らしい」か「心筋梗塞らしくない」か意識して、注意深く診察することで、場合によっては問診と診察だけで十分に原因が特定出来る場合も少なくありません。医療に100%が存在しないのと同様に、検査でも100%の精度を持った検査というものも存在しない以上、症状と検査の両方を組み合わせて、循環器内科医が総合的に判断していくことが非常に重要です。


【心筋梗塞の検査】

心筋梗塞の診断は、動脈硬化リスクと症状、心電図、採血の3つによって診断します。

1)動脈硬化のリスクと症状によって、どれくらい本当に「心筋梗塞らしさ」があるかを評価します。循環器内科医として「心筋梗塞らしさ」が非常に高いと判断した場合は、例え心電図検査、採血検査が陰性であってもさらに詳しい検査を進めることがあります。)

2)心電図検査、虚血性変化という心電図変化が見られます。心電図所見が特徴的な場合、詰まった血管が特定出来る場合があります。1)の「心筋梗塞らしさ」が十分に高い場合、心電図変化がなくても心筋梗塞は否定は出来ないと考え、さらに詳しい検査を進めることがあります。)

3)採血検査、トロップT(トロポニンT)やラピチェック(H-FABP)と行った心筋逸脱酵素という心筋梗塞が起きた時に陽性になる成分を採血で迅速検査を行います。1)の「心筋梗塞らしさ」が十分に高い場合、時間経過は早い場合、迅速検査が陰性であっても心筋梗塞は否定は出来ないと考え、さらに詳しい検査を進めることがあります。)

逆に、1)の「心筋梗塞らしさ」が十分に低い場合は、検査をしないで経過を見たりする場合もあります。

【追加の色々な検査】

・心エコー、心臓の動きを詳しく診ます。心筋梗塞の場合は心筋梗塞を起こした冠動脈に一致する場所を中心に心臓の動きが悪くなっている所見、壁運動異常がないかチェックします。

・冠動脈カテーテル検査、「心筋梗塞らしさ」が十分に高いと判断した場合、心筋梗塞の確定診断と、同時に詰まった血管を直接治療するためにカテーテルを行います。カテーテル設備のある循環器の専門病院か大きな病院の循環器内科で行います。

・心臓CT、心臓MRI検査、「心筋梗塞らしさ」が非常に低いけれどゼロではない場合、主に異常がないことを確認するために行います。近くの心臓画像専門のクリニックで予約で検査が出来ます。

・ホルター心電図、心筋梗塞よりもむしろ不整脈を疑う場合に行います。症状が発作的で、朝の通勤電車内や、夜間、明け方など、医療機関の診療時間外で起こる場合はその時の脈を記録して解析します。

・胸部レントゲン、心筋梗塞以外にも肺や肋骨、大血管の異常、心不全などがないかチェックします。


【心筋梗塞の治療】

循環器内科の大きな病院で、カテーテル検査によって詰まった血管に対し、そのままバルーン拡張、ステント留置などカテーテル治療を行います。外科的に冠動脈バイパス術が行われることがあります。カテーテル検査の結果によって治療は様々ですので、割愛します。

【心筋梗塞後の薬】

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙があればそれぞれ治療します。心筋梗塞は動脈硬化が原因ですので、それぞれの動脈硬化のリスクの治療は重要です。また生活習慣病治療の前提として、食事療法、運動療法を行います。

高血圧症→https://ochanai.com/hypertension

脂質異常症→https://ochanai.com/dyslipidemia

糖尿病→https://ochanai.com/diabetesmellitis

喫煙→https://ochanai.com/smoking

動脈硬化のリスクの治療に加えて、心筋梗塞後の治療、二次予防のために以下のような薬を使います。

・スタチン、心筋梗塞後の基本薬です。プラーク安定化作用、血管内皮機能を改善して、心筋梗塞を減らすことが証明されています。もともと脂質異常症の薬ですが、単に悪玉コレステロールを下げるだけではなく、今では動脈硬化予防の薬という役割です。心筋梗塞後、特に使えない理由がない限りほぼ全例に使います。

・βブロッカー、心筋梗塞後の基本薬です。心臓を少し休めて、心筋酸素需要を軽減して、虚血に対して予防効果が証明されています。一時代前には「心筋梗塞後で弱っている心臓をさらに休めるなんて禁忌である」と言われたものですが、180度変わりました。医療は常に進歩しています。心筋梗塞後、特に使えない理由がない限りほぼ全例に使います。

・ACE阻害薬、心筋梗塞後の基本薬です。血圧を下げるだけではなく、心筋梗塞後の心筋リモデリングを予防する効果があり、心筋梗塞を減らすことが証明されています。咳の副作用が辛い場合は同じ作用のARBというタイプの薬を使っても構いません。心筋梗塞後、特に使えない理由がない限りほぼ全例に使います。

・抗血小板薬、心筋梗塞のカテーテル治療ではステント治療も同時に行うことがほとんどですが、ステント留置後はステント血栓症の予防のために、抗血小板薬を二種類併用します。DAPT(Dual Anti-Platelet Therapy)と言います。バイアスピリン(アスピリン)とプラビックス(クロピドグレル)、または、バイアスピリン(アスピリン)とエフィエント(プラスグレル)の二種類を使うことが多いです。非常に重要な薬ですので、主治医の判断なく辞めることがないようにしましょう。心筋梗塞後、特に使えない理由がない限りほぼ全例に使います。

・硝酸薬、血管を拡張させて心臓への負荷を軽減、冠動脈を拡張させて、虚血発作を減らします。心不全症状、狭心症発作の程度に応じて使います。

・利尿薬、利尿効果で心臓への負荷を軽減します。心不全症状や浮腫を起こしている時にも使います。

・SGLT2阻害薬、腎臓から糖分を排出して血糖を下げる薬ですが、その後、心筋梗塞予防効果や腎機能予防効果があることがわかって来ました。今後、心筋梗塞後に使われる基本薬の一つになる可能性があります。糖分と一緒に水分も排出するので、血圧低下作用、心臓への負荷を軽減する作用、体重減少作用、他にも作用があるのではないかと言われています。

他にも多くの心筋梗塞後に使う関連薬がありますが、このへんで割愛します。全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

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