【アレルゲン免疫療法とは】
アレルゲン免疫療法(Allergen Immunotherapy)とは、減感作療法(Hyposensitization Therapy)とも呼ばれ、アレルギー症状を和らげたり、アレルギーを治ることが期待出来る治療法です。唯一、アレルギーの完治を期待出来る治療法ということで注目されています。いくつか注意点がありますのでご覧ください。
【アレルゲン免疫療法の仕組み】
一言で言うと、アレルゲンに徐々に慣れていく治療法です。免疫とはウイルスや細菌などの有害な抗原(Antigen)に対して倒そうとする人体の機能で、花粉などの日常的な抗原に対して過剰に免疫反応が起こっている状態をアレルギー(Allergie)と言います。歴史的にも漆かぶれなどに対し、少量のアレルゲンを継続的に投与していくと中長期的にアレルギー症状が和いでいくことが経験的に知られていました。正確な医学用語で免疫寛容(めんえきかんよう:Immune Tolerance)と言い、これを治療法として応用したものがアレルゲン免疫療法で、アレルギーの原因となる抗原を少量づつ持続的に投与することで、免疫反応を過剰に起こさないように免疫システムが次第に変化させていく治療法です。
【アレルゲン免疫療法の実際】
お茶の水内科では主にスギ花粉に対する舌下免疫療法を行っています。スギ花粉に対する免疫療法の治療薬「シダトレン」を用いて治療していきます。以下、シダトレンの治療の流れについて説明します。
(1)、まず治療開始前に「スギ花粉症」で間違いがないことを確認します。シダトレンはスギ花粉以外には全く効果がありません。アレルギー検査等でスギ花粉に対する特異的IgE抗体が陽性であることを確認します。また、スギ花粉以外のアレルギーが多数陽性であるとその分劇的な効果が期待出来なかったりするので、治療開始するかどうかよく検討する必要があります。他院で最近アレルギー検査をした結果があれば検査結果をお持ちください。
(2)、初回のみ予約制です。
シダトレンの舌下免疫療法は基本的には安全性の高い治療法ですが、アレルゲンを口の中に含む治療法ですので、重篤なアレルギー反応を引き起こしてしまうリスクはゼロではありません。初回のみ院内で経過観察するようにとルールが決められています。具体的には、スギ花粉のエキス、シダトレンを舌下に滴下、2分間保持し、飲み込みます。その後30分間程度、問題がないかを院内で経過観察します。また初回用のシダトレンの薬剤を院内に用意する必要がありますので、初回のみ予約制です。
(3)、最初のみ2週間後に再診です。
シダトレン開始後2週間後に問題がないかを確認します。薬のアレルギーの多くは内服開始後に起こります。口の中の痒み等の多少の副反応はありますが、重篤な副反応や副作用がないかとチェックします。その後長期に継続可能かどうかを決定します。
(4)、長期に継続します。
シダトレン内服開始後、特に問題がなければシダトレンは基本的に継続です。出来るだけ通院の負担にならないように、処方箋の日数の上限の90日分まで長期に処方していますので、長期に継続ください。次の花粉の時期にどの程度効果が出来るかどうかを楽しみに待ちましょう。
シダトレンに関してさらに詳しくはシダトレンのメーカーである鳥居薬品さんのページをご覧ください。
トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ→http://www.torii-alg.jp
スギ以外の免疫療法、皮下注射等の免疫療法に関しては恐れ入りますが、アレルギー専門医、アレルギー科をご受診ください。
【シダトレンの注意点】
・スギ花粉以外のアレルギーには全く効果がないので、まずはアレルギー検査等でスギ花粉であることを確定診断する必要があります。
・100%完治を保証出来る治療法ではありませんのでご注意ください。有効率は70-80%程度です。具体的には、臨床治験のデータ上、全く症状がなくなった人の割合(完全寛解)は20-30%、症状が軽減された人の割合(部分寛解)が50%程度と報告されています。一方で、効果がなかったという人の割合(無効)が10-20%程度報告されているということにご注意ください。テレビや雑誌などで花粉症が完治する夢の治療法などと紹介されていることがあるようですが、花粉症の症状を軽くすることが出来る治療法、半分以上の方で薬を減らすことの出来る治療法、運が良ければ全く薬を使わずに済む可能性もある治療法、くらいのイメージが妥当です。
・スギ花粉飛散している2月から4月の時期は治療を開始出来ないので、5月から1月の時期に治療開始する必要があります。
・免疫療法の効果を期待するためには最低2年間以上、長期に治療継続の必要があります。また日本では2014年から保険適応になった治療法ですので長期的な効果や安全性を調べたデータがありません。
・治療の性質上、副作用として重症アレルギー反応を起こしてしまうリスクがゼロではありません。重症の気管支喘息、以前にアレルゲン免疫療法でアナフィラキシー等の重症なアレルギー反応を引き起こしてしまった既往歴がある方は原則的に治療が出来ません。
以上、デメリットばかりを挙げてしまいましたが、シダトレンで花粉症の症状がほとんどなくなった、という患者さんも確かにいらっしゃいます。アレルギーの完治を期待出来る治療法ということで、ご感心がある方はぜひご相談ください。