気管支喘息

【気管支喘息とは】

気管支喘息(Bronchial Asthma)とは、気管支に慢性的に炎症が起きて、気管支が様々な外的刺激に対して過敏になり、可逆的に気流狭窄を引き起こし、いわゆる喘息発作(Asthma Attack)を生じる病気です。症状は夕方、夜間、明け方に悪化しやすいことが特徴です。気管支に炎症が起きる原因は、風邪などの感染症や急な激しい運動をきっかけに悪化することもあれば、季節の変わり目や乾燥など気温、湿度、気圧などの急激な変化が関係していることもあります。小児喘息の既往があって大人になっても気管支が過敏な体質だけ残ることもあります。何らかのアレルギー性が関係していること、アトピー素因の関与など諸説ありますが、成人の場合はハッキリと原因と特定出来ないことも少なくありません。日本呼吸器学会のページに詳しい説明がありますのでご覧ください。

http://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=15

【気管支喘息の診断】

日本アレルギー学会「喘息予防・管理ガイドライン」は2015年に改訂され、気管支喘息は「気道の慢性炎症を本態とし、臨床症状として変動性を持った気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳で特徴付けられる疾患」と定義されました。診断の目安として、下記の6項目が挙げられており、特に1、2、3の項目が臨床診断上重要です。

1)発作性の呼吸困難、喘鳴、咳の反復、症状は夜間、早朝に出現しやすいのが特徴

2)可逆性の気流制限

3)他の疾患の除外

4)気道過敏性の亢進、運動、気道感染症、アレルギー、気象変化、精神的ストレス、月経などで症状が悪化

5)アトピー素因

6)気道炎症の存在

以前から喘息の診断が付いており、典型的な病歴と症状を認める場合、喘息の診断は難しくありません。胸部聴診では笛声音(wheeze)やいびき音(rhonchi)などの気管支の狭窄を示唆する気管支喘鳴の聴取を認めます。臨床症状や悪化要因とともに、気道可逆性としては、吸入薬の投与に対して反応する、吸入薬にて症状が改善する、という点も非常に重要で、しばしば診断的治療を進めて行きます。初発の場合、症状に変化を認める場合、他の疾患の除外が必要な場合、COPDの合併や程度を評価する必要がある場合、必要に応じて胸部レントゲンや胸部CTで詳しく検査を進めていきます。発熱、膿性痰、マイコプラズマ、百日咳、クラミドフィラ等咳の感染症の接触の可能性を認める場合は、長引く咳症状が目立つ感染症も含め、幅広く検査が必要です。心不全による慢性咳嗽のことを心臓喘息(Heart Asthma)と言いますが、通常、身体所見、胸部レントゲンで心拡大がないことで鑑別が付きます。その他、逆流性食道炎、副鼻腔気管支症候群、など慢性咳嗽の原因は多岐に渡りますので、幅広く鑑別が必要になることもあります。

慢性咳嗽→https://ochanai.com/chroniccough

気道可逆性試験、気道過敏性試験など、呼吸機能検査にて一秒率などの数値を調べることも参考になります。診断が難しい場合は呼吸器内科や喘息の専門医にて一度精査を行ってもらっています。

【気管支喘息の治療】

気管支喘息の治療の目標は、日常生活に支障がないよう症状をコントロールすることです。上図のように4つの治療ステップに分けて、症状のコントロール不良であればステップアップ、安定していればステップダウンをして行きます。治療の基本は吸入薬です。気管支の慢性炎症が本態ですので、長期管理薬による抗炎症療法が重要です。一年間を通して喘息発作が出ないことが理想です。気管支喘息の治療についてはこちらにエッセンスが端的にまとまっていますのでご覧ください。

http://dl.med.or.jp/dl-med/chiiki/allergy/bronchial_asthma.pdf

・アドエア(フルチカゾン、サルメテロール)、シムビコート(ブデソニド、ホルモテロール)、レルベア(フルチカゾン、ビランテロール)、フルティフォーム(フルチカゾン、ホルモテロール)、吸入ステロイドと呼ばれる気管支喘息の基本薬です。気管支の炎症を鎮める作用で、気管支喘息の原因に対する治療です。吸入ステロイドとβ刺激薬の配合の吸入薬が効果が高いですが、フルタイド(フルチカゾン)、パルミコート(ブデソニド)、キュバール(ベクロメタゾン)、アズマネックス(モメタゾン)、オルベスコ(シクレソニド)、などの吸入ステロイド単剤もあります。飲み薬のステロイドと違って全身への副作用は大きな心配ありません。アドエアやレルベアのメーカーであるグラクソスミスクライン、シムビコートのメーカーであるアステラスとアストラゼネカがそれぞれ気管支喘息と吸入薬について詳しくまとめていますのでご参考ください。

http://zensoku.jp/index.html

http://naruhodo-zensoku.com

・サルタノール(サルブタモール)、メプチン(プロカテロール)、β刺激薬、気管支拡張薬と言って、気管支を広げ、呼吸を楽にします。吸入ステロイド薬のことを長期管理薬(コントローラー)、β刺激薬のことを発作治療薬(レトリーバー)と言います。発作治療薬の気管支拡張薬には気管支の炎症自体を治す作用はないので、必ずコントローラーをベースに治療することが大切です。発作治療薬は出来るだけ必要最小限、安定して来たら使わないで済むことが理想です。β刺激は心臓に作用すると頻脈になりますので、ドキドキ動悸がした場合は使わないようにしてください。気管支拡張薬の貼り薬、ホクナリンテープ(ツロブテロール)もあります。

・メジコン(デキストロメトルファン)、鎮咳薬です。気管支の炎症自体を治す作用はありませんが、咳が収まるまで咳止めを併用します。

・シングレア(モンテルカスト)、他、ロイコトリエン拮抗薬です。気管支の調子を整えます。

・アレグラ(フェキソナジン)、ザイザル(レボセチリジン)、他、抗ヒスタミン薬です。喘息の背景にアレルギー性の要因の関与が考えられる場合に使います。

・テオドール(テオフィリン)、他、テオフィリン系と呼ばれる昔からある気管支拡張薬です。動悸や吐気などテオフィリン中毒に注意しながら使います。

・麦門冬湯(ばくもんどうとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、柴朴湯(さいぼくとう)、五虎湯(ごことう)、漢方薬です。相性を見ながら使います。

・プレドニン(プレドニゾロン)、咳がとにかく酷い場合、短期間限定で内服のステロイドを使うこともあります。強力に炎症を押さえます。症状が収まったら辞めていきます。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


気管支喘息と微妙に違いますがほとんど同じ疾患として、咳喘息、アトピー咳嗽、アスピリン喘息、喘息COPDオーバーラップ症候群、がありますので、それぞれ簡潔にご紹介します。詳しくは呼吸器内科または喘息の専門医の領域となりますので、必要があれば紹介にて詳しく診察してもらっています。

【咳喘息とは】

喘息の一型として、咳喘息(Cough Variant Asthma)があります。喘鳴や呼吸困難を伴わないこと、慢性咳嗽が特徴で、気管拡張薬、吸入ステロイド、抗ロイコトリエン薬が有効であることが特徴です。喘息と同じく、咳は就寝前、深夜、明け方に強く、冷気、暖気、喫煙、受動喫煙、会話、運動、飲酒、精神的緊張などで悪化することが特徴です。治療は喘息と基本共通です。原因は喘息も咳喘息も同じく気管支の慢性炎症と気道過敏性の亢進が原因と言われており、咳喘息の時点でちゃんと治療をしないと30%程度が典型的な気管支喘息に移行するとも言われていますので、早期からの治療が重要です。

咳喘息→https://ochanai.com/coughvariantasthma

【アトピー咳嗽とは】

アトピー咳嗽とは慢性咳嗽の原因の一つで、何らかのアレルギー性の関与が関係していると言われており、気管支拡張薬が無効、吸入ステロイド、抗ヒスタミン薬が有効であることなどが特徴です。治療は喘息と大きく変わりませんが、原因アレルギーに対する治療で症状の改善が期待出来ます。

【アスピリン喘息とは】

成人喘息の中にはアスピリン喘息と言って解熱鎮痛薬にて悪化する体質の人が一定数います。アスピリンだけではなく、ロキソニン、イブプロフェンなどの解熱鎮痛薬の成分などもアスピリン喘息の原因になる可能性があります。市販の風邪薬にも含まれているものもあるので注意です。治療は原因となった解熱鎮痛薬の中止です。アスピリン喘息があって大丈夫な解熱鎮痛薬を使うことが大切です。

【喘息COPDオーバーラップ症候群とは】

喘息とCOPDは別の疾患概念ですが、両者のオーバーラップ症候群(Asthma COPD Overlap Syndrome: ACOS)という病態も近年注目されています。治療は喘息と共通する部分も大きいですが、抗コリン配合薬などの気管支拡張薬も有効です。原因は喫煙で、禁煙で予防出来ます。そもそも煙草の煙は気管支に対して異物であり、喘息の悪化要因でもあります。いきなり禁煙とまではいかなくても少なくとも咳が収まるまでは煙草は控えましょう。


 

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