慢性心不全

【慢性心不全】

慢性心不全(Chronic Heart Failure: CHF)とは、様々な原因で心臓の機能が弱っている状態です。心臓の機能とは、心臓から全身に血液を送り出す機能、心臓のポンプ機能のことです。心臓のポンプ機能が弱ると、最初は心拍数を増やしたり、末梢血管を収縮させたりして循環を維持しようとします。代償性心不全(Compensated Heart Failure)と言います。代償が効かなくなると非代償性心不全(Decompensated Heart Failure)と言います。また心臓の収縮能、左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction: LVEF)または単に駆出率(Ejection Fraction: EF)に着目して、駆出率が低下した心不全(Heart Failure with reduced Ejection Fraction: HFrEF)と、駆出率が保たれた心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction: HFpEF)または拡張不全と分類することも多いです。詳しくは日本循環器学会「慢性心不全治療ガイドライン」をご覧ください。

http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf

【慢性心不全の原因】

慢性心不全の原因は多岐に渡ります。急性心筋梗塞後の虚血性心疾患、各種心筋症、弁膜症を始め、ほとんど全ての心疾患が慢性心不全の原因となります。急性心筋梗塞や大動脈解離、交通外傷による心臓損傷などは慢性心不全ではなく主に急性心不全(Acute Heart Failure: AHF)の原因となります。慢性心不全の経過中に急性心不全を発症することもありますし、慢性心不全の急性増悪(Acute Exacerbation of Chronic Heart Failure)もあります。

・高血圧性

・心筋梗塞後

・心筋症:拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、急性心筋炎、たこつぼ型心筋症、他

・弁膜症:僧帽弁狭窄症、僧帽弁逆流症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、肺高血圧症、収縮性心膜炎、他

・不整脈:心室頻拍、心房細動、心房粗動、心房頻拍、洞不全症候群、完全房室ブロック、不整脈原性右室心筋症、他

・先天性心疾患:心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、心内膜床欠損症、ファロー四徴症、左心低形成症候群、エプスタイン奇形、ファロー四徴症、他

・その他、全身疾患:重度の貧血、甲状腺機能異常、副腎皮質機能異常、カテコラミン異常、脚気心、心サルコイドーシス、心アミロイドーシス、全身性エリテマトーデス、慢性閉塞性肺疾患、他

・薬剤性:βブロッカー、抗不整脈薬、抗癌剤、アルコール、カフェイン、他

慢性心不全の原因は多岐に渡ります。心電図、胸部レントゲン、採血検査、心エコー検査、ホルター心電図、心臓MRI、カテーテル検査、心筋生検等にて調べて行きます。

【慢性心不全の治療】

慢性心不全の治療として、慢性心不全の原因として原因のハッキリしているものがあれば原因を治療します。また、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒等、冠動脈疾患のリスク因子は全て心筋梗塞、心筋梗塞の再発、慢性心不全悪化の原因となりますので、リスク因子があればそれぞれ治療します。ここでは、代表例として、心筋梗塞後の慢性心不全の治療例を紹介します。

・βブロッカー、心臓の脈や収縮力を適度に落として心臓を休ませます。心機能を落とすβブロッカーは急性心不全には禁忌または慎重投与ですが、慢性心不全に対しては心臓を適度に休ませたほうが長期的には心機能が長持ちすることが様々な研究でわかっています。アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、テノーミン(アテノロール)、インデラル(プロプラノロール)などがあります。

・ACE阻害薬、ARB、降圧薬であると同時に、心筋のリモデリングを抑制し、慢性心不全の悪化を防ぐ効果があります。拡張型心筋症、肥大型心筋症等の心筋症に対しては進行抑制効果を期待して使います。レニベース(エナラプリル)、タナトリル(イミダプリル)、アジルバ(アジルサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)、ブロプレス(カンデサルタン)などがあります。降圧不十分の場合は、カルシウム拮抗薬、アムロジン(アムロジピン)などを追加します。

・アルドステロン拮抗薬、ACE阻害薬、ARBと同様、心筋のリモデリングを抑制し、慢性心不全の悪化を防ぐ効果があります。アルダクトン(スピロノラクトン)、セララ(エプレレノン)があります。

・利尿薬、余分な水分を体外に排出し、心臓への負担を軽減します。肺うっ血やむくみがある場合にも使います。ラシックス(フロセミド)、フルイトラン(トリクロルメチアジド)、ナトリックス(インダパミド)、サムスカ(トルバプタン)などがあります。

・スタチン、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、脂質異常症の治療薬です。動脈硬化予防効果があります。

・抗血小板薬、バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、心筋梗塞の治療でステント留置後では、抗血小板薬が必須になります。特にステント留置後、最初の一年間前後は抗血小板薬を二剤併用(Dual Anti Platelet Therapy: DAPT)が必要です。抗血小板薬による胃潰瘍を防ぐため、胃薬のPPI、タケプロン(ランソプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)などを併用します。心筋梗塞後は必要な薬が多くて大変です。

・抗凝固薬、心機能が高度に低下している場合、慢性心不全の結果、心房細動がある場合、脳梗塞予防のため抗凝固療法が必要になります。僧帽弁狭窄症などの弁膜症が原因の弁膜症心房細動にはワーファリン(ワルファリン)、非弁膜症心房細動(Non Valvular Atrial Fibrillation: NVAF)には、エリキュース(アピキサバン)、プラザキサ(ダビガトラン)、リクシアナ(エドキサバン)、イグザレルト(リバロキサバン)、ワーファリン(ワルファリン)を使います。

・禁煙、喫煙は明らかに心筋梗塞、心筋梗塞の再発のリスク因子です。煙草は辞めましょう。

・経口強心薬、ジゴシン(ジゴキシン)、心筋収縮力を高めます。中毒域が近いため、昔ほど使われなくなりましたが、頻脈性の心房細動で心収縮力も低下している場合などにはよい適応となることもあります。

・抗不整脈薬、慢性心不全の原因として不整脈、または慢性心不全の結果、不整脈がある場合、抗不整脈薬を使います。アンカロン(アミオダロン)、シベノール(シベンゾリン)、シンビット(ニフェカラント)、他多数の抗不整脈薬があります。

・SGLT2阻害薬、糖尿病治療薬です。利水効果、心不全に対してよい効果があることがわかって来ています。ジャディアンス(エンパグリフロジン)、カナグル(カナグリフロジン)などがあります。現在、慢性心不全に対して適応はありませんが、今後慢性心不全に対して使われる可能性があります。

その他の治療法として、心臓リハビリテーション、静注強心薬、弁膜症に対しての外科的治療、ペースメーカー、心拍再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)、植込型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)、補助人工心臓、植込型人工心臓、心移植、などがありますが、専門的になりますので割愛します。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

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