【良性発作性頭位めまい症とは】
良性発作性頭位めまい症(りょうせいほっさせいとういせいめまいしょう、Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV)とは、最も多い末梢性目眩の原因です。脳の病気が原因ではない目眩のことを末梢性目眩と言います。その病名の由来の通り、脳に異常はなく悪性のものではなく、症状は頭の位置を変えた時に誘発され発作的に起こる目眩です。急に起き上がる、横になる、上を向く、高いところの物を取ろうとする、後ろを振り返る、しゃがむ、などの頭の位置を急に買える動作で目眩が起こる症状が特徴です。一回の発作は30秒から60秒程度で、目眩の性状は回転性目眩、しばしば吐気、嘔吐、眼振を伴います。頭位を変えない姿勢、安静時には症状が出現しないこと、耳鳴りや聴力低下などの蝸牛症状は伴わないこと、四肢の感覚障害や運動障害、呂律障害など他の脳神経症状を伴わないこと、などが重要です。下記のように良性発作性頭位めまい症の目眩は必ず自然軽快するのですが、発症初期には突然強い目眩が生じ、驚かれて来院する方が多いです。
【良性発作性頭位めまい症の診断】
良性発作性頭位めまい症の診断は主に症状による臨床診断です。上記のように良性発作性頭位めまい症に典型的な症状で他の疾患を疑う症状がない場合、診断は難しくありません。重要なことは、中枢性の目眩でないこと、具体的には、手足の痺れ、呂律障害、視力や視野の異常、顔面の運動や感覚の異常、など脳卒中を疑うような脳神経症状を認めないことです。症状が非典型的であったり、動脈硬化性のリスク因子を多数認め、脳血管疾患の除外が必要な場合には脳に異常がないことを確認するために頭部MRIを撮影します。耳鳴りや聴力低下など蝸牛症状を伴う場合は耳鼻咽喉科にて詳しく診察をしてもらっています。詳しくは良性発作性頭位めまい症の診療ガイドラインがありますのでご参考ください。
→http://www.hotweb.or.jp/shirato/memai-bppv.pdf
【良性発作性頭位めまい症の原因】
内耳には主に聴覚機能を担う蝸牛(Cochlea)と、平衡感覚機能を担う前庭(Vestibule)という二つの器官があります。前庭には、前半規管、後半規管、水平半規管の3方向の三半規管と、耳石器があります。耳石器には耳石と呼ばれる炭酸カルシウムの小さな粒があり、耳石の傾きや動きを内耳の有毛細胞という細胞が感知、前庭神経が脳に情報を伝え、平衡感覚を感じています。耳石は普段は耳石器という場所に収まっているのですが、何かの外的刺激で外れてしま、三半規管のほうに移動してしますことがあります。良性発作性頭位めまい症では、頭位変換時に、有毛細胞に強い刺激が加わり、急激な目眩症状が生じます。通常、目眩症状は次第に慣れて行くため、1週間から2週間続きながら段々と症状は軽快し、自然に治って行きます。
【良性発作性頭位めまい症の治療】
良性発作性頭位めまい症の目眩は自然軽快する目眩です。上記のように、良性発作性頭位めまい症の目眩は耳石の異常で、当初は強い目眩が起きますが、次第に平衡感覚が慣れて来るので、自然軽快して行きます。実は、目眩を引き起こす頭位を積極的に取るほど治癒は早いと言われていますので、慣れてきたらわざと目眩を起こすことが早く治すコツです。ただ最初は辛いので、急激な頭位変換は避けて安静にし、目眩止め、吐気止めで対処します。
・メリスロン(ベタヒスチン)、セファドール(ジフェニドール)、アデホス(アデノシン三リン酸)、抗目眩薬です。対症療法です。良性発作性頭位めまい症の初期の辛い目眩が収まるまで使います。
・理学的に耳石を耳石器内に戻す方法として、エプリー法(Epley法)という頭位治療があります。エプリー法の他に、Brandt-Daroff法、Semont法、Lempert法などがあり、必要な場合は対応可能な耳鼻咽喉科に紹介してやってもらっています。
・ナウゼリン(ドンペリドン)、プリンペラン(メトクロプラミド)、吐気止めです。吐気が辛い場合に使います。
・五苓散(ごれいさん)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、目眩症状に合った漢方もあります。
全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。