【胸痛とは】
胸痛とは、胸部に感じる痛みの自覚症状です。胸全体が押されるような痛み、胸全体が締め付けられるような痛み、胸の一箇所がズキズキ、チクチクとした痛み、呼吸によって変わる痛み、息苦しさ、等幅広い自覚症状の総称です。循環器科としては、循環器疾患、特に致死的疾患を否定することが目標になります。
【胸痛の原因】
胸痛症状を引き起こす原因は多岐に渡ります。心筋梗塞、狭心症等の冠動脈疾患、冠動脈疾患以外の循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、整形外科疾患、神経疾患、ストレス性など、非常に多岐に渡ります。具体的には下記に詳しくまとめました。
・冠動脈疾患(心筋梗塞、労作性狭心症、冠攣縮性狭心症、他)
・冠動脈疾患以外の循環器疾患(大動脈解離、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、心筋炎、たこつぼ心筋症、他)
・呼吸器疾患(肺塞栓症、気胸、胸膜炎、肺炎、肺癌、他)
・消化器疾患(逆流性食道炎、胃潰瘍、胃痙攣、食道痙攣、特発性食道破裂、胆石、胆嚢炎、膵炎、他)
・整形外科疾患(肋骨骨折、鎖骨骨折、胸椎椎間板ヘルニア、肩関節痛、他)
・神経疾患(肋間神経痛、帯状疱疹、他)
・薬剤性、カフェイン、喫煙、アルコール、他
・ストレス性、心臓神経症、不安神経症、非心臓性胸痛
・その他、原因不明、上記にいずれも明らかな異常を認めないもの
以上、胸痛の原因は多岐に渡ります。主に循環器疾患によるものと、そうでないもの、の二つに分けることが出来ます。循環器疾患によるものは、さらに、心筋梗塞や狭心症と言った冠動脈疾患と、冠動脈疾患以外の循環器疾患に分けることが出来ます。循環器疾患以外で多いものは、気胸、肋間神経痛、帯状疱疹等が多いです。中には明らかに原因を特定出来ないものもりますが、循環器科の役割としては、循環器疾患、特に致死的疾患を否定することが目標になります。循環器疾患、虚血性心疾患について詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。
→http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/disease/ischemic-heart-disease.html
【循環器科の役割】
循環器科の役割は、胸痛の原因として循環器疾患、特に致死的疾患を精査することです。具体的には、主に胸痛の原因として、循環器疾患によるものがどうか、特に冠動脈疾患によるものかどうか、冠動脈疾患の場合は緊急で治療をする必要のあるものかどうか、を調べて行きます。まずは、心電図、胸部レントゲンの2つにて胸痛症状を引き起こす疾患を幅広く調べます。冠動脈疾患を疑った場合には、採血にて心筋逸脱酵素、心機能、冠動脈疾患をさらに強く疑った場合には冠動脈CT、心臓MRI、心臓カテーテル検査を追加します。心エコー、胸部CT、上部消化管内視鏡検査、等、胸痛の原因を探って行きます。循環器科では循環器疾患、特に致死的疾患を否定することが目標です。特に採血検査、心筋逸脱酵素であるトロポニン迅速検査とH-FABP迅速検査、心機能検査であるBNPは有用で、心筋梗塞や心不全の精査や除外に優れています。循環器疾患が否定出来た場合、適切な診療科へ紹介します。
・心電図検査
・胸部レントゲン
・心筋逸脱酵素迅速検査(トロップT、ラピチェク、等)
・採血(心機能、凝固、甲状腺機能、貧血、炎症反応、他)
・心エコー、冠動脈CT、心臓MRI、心臓カテーテル検査、
・胸部CT、上部消化管内視鏡検査、他
・循環器疾患が否定出来た場合、他の適切な診療科へ紹介
症状、既往歴、心血管疾患のリスク因子によって様々ですが、まずは心電図検査、胸部レントゲン検査の2つを行います。虚血性心疾患を疑った場合、採血、冠動脈CTと、適宜検査を追加します。
【冠動脈疾患の評価】
循環器内科医は、冠動脈疾患の既往歴、年齢、冠危険因子、家族歴、症状、増悪寛解因子、随伴症状、様々な情報から総合的に冠動脈疾患の可能性とリスクの評価をしていきます。具体的には、
・冠動脈疾患の既往歴:以前に心筋梗塞、狭心症等の冠動脈疾患の既往がある場合には、真っ先に冠動脈疾患の可能性から精査して行きます。
・年齢:年齢は重要な情報です。虚血性心疾患のリスクは加齢とともに増大します。30代後半、40代、50代、60代、70代の胸痛であれば、虚血性心疾患の精査除外をまずは念頭に置いて診察を進めます。逆に言うと、心血管疾患のリスク因子がない方で、10代、20代、30代前半の方がいきなり虚血性心疾患を起こす可能性はゼロではありませんが、基本は稀です。
・冠危険因子:冠動脈疾患の危険因子、冠危険因子も年齢と同じかそれ以上に重要な情報です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の既往、冠動脈疾患の家族歴、脳梗塞の既往、血栓症の既往、などが冠危険因子です。冠危険因子が当てはまれば当てはまるほど冠動脈疾患を引き起こすリスクは高いです。当院の方針としては、冠危険因子が3個以上あれば必ず冠動脈疾患を精査除外、2つの場合も基本的に同様、1つの場合は症状や他の検査の結果を診ながら冠動脈疾患の精査除外の必要性があるかどうかを検討します。逆に言うと、冠危険因子が0個、一つも該当しない場合、冠危険因子を引き起こす可能性はゼロではありませんが、リスクは非常に低いです。
・胸痛の性状:胸全体が重く押されるような感じ(重圧感)、胸全体が圧迫されるような感じ(圧迫感)、胸全体が締め付けられるような痛み(絞扼感)、という場合、まずは虚血性心疾患の精査除外を念頭において診察を進めます。逆に言うと、胸の一箇所が痛い、ズキズキ、チクチク痛いという場合は、虚血性心疾患っぽくはないと考えながら診療を進めます。
・増悪寛解因子:痛みがどのようば場合に変化するかも重要な情報です。労作時、運動時、階段を登ったり、坂を登ったりする時に胸部圧迫感が悪化する場合は、虚血性心疾患を念頭において診察を進めます。逆に、深呼吸や咳が変わる場合は呼吸器疾患、食事や飲酒に関係する場合は消化器疾患、姿勢や動きで変化する場合は整形外科疾患等を考えます。安静時の場合は心血管疾患ではない場合が多いですが、夜間、早朝、喫煙、寒冷刺激等で発作を起こしやすい冠攣縮性狭心症というタイプの狭心症もあります。既往歴、年齢、冠危険因子、症状、増悪寛解因子とともに評価をしていきます。
・随伴症状:胸痛症状以外の症状の情報も重要な情報です。肩の痛み、顎の痛み、腕の痛み、歯の痛みが狭心症や心筋梗塞のサイン、放散痛、関連痛として自覚することは珍しくはありませんが、それだけで決め付けることは出来ません。高齢、女性、糖尿病など、明らかな胸痛症状の自覚がなく、無痛性心筋梗塞、吐気や肩の重さ、の場合がありますので注意です。既往歴、年齢、冠危険因子、症状、増悪寛解因子とともに評価をしていきます。
【まとめ】
以上のように、胸痛症状を引き起こす原因は多岐に渡ります。冠動脈疾患の既往歴、年齢、冠危険因子、家族歴、症状、増悪寛解因子、随伴症状、様々な情報から総合的に冠動脈疾患の可能性とリスクの評価をしていきます。一つだけの情報で決め付けることは出来ません。循環器科の役割としては、循環器疾患、特に致死的疾患を否定することが目標になります。中には明らかに原因を特定出来ないものもりますが、命に関わらないことを確認することがゴールになります。心配ないものを心配ない、大丈夫なものを大丈夫と、診断することも循環器内科医の大事な仕事です。循環器疾患、特に冠動脈疾患は危険因子が特定されています。具体的には、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の既往、冠動脈疾患の家族歴、脳梗塞の既往、血栓症の既往、などが冠危険因子です。修正可能な危険因子、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙を放置せずに、心筋梗塞を起こさないこと、心血管疾患の一次予防が大切です。主治医までご相談ください。