【脂質異常症とは】
脂質異常症は心筋梗塞や狭心症の最も大きなリスク因子です。脂質の摂り過ぎ、運動不足、脂質の高い家系、肥満、甲状腺機能低下などが関わっています。脂質異常症は特に自覚症状がないため放置しがちですが、脂質が高い状態が何年も続くと動脈硬化が進行し、狭心症、心筋梗塞を引き起こします。早期で軽度であれば、いきなり薬ではなく、食事と運動で十分改善しますので、放置せずに主治医に相談しましょう。
【脂質異常症の検査】
脂質異常症は血液検査によって診断します。総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(TG)の値を検査します。検診項目にも含まれているので、検診で脂質が高いと指摘されたのをきっかけに受診されることも多いです。上記の項目の中でも一番重要なのが、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールです。検診は厳し目にLDL 120で引っ掛けることが多いですが、脂質異常症の診断基準としてはLDL 140が基準です。治療目標はLDLを140未満に下げることです。100人中に1人程度、家族性にコレステロールが高いという方がいますが、これは遺伝的な体質によるなので、心筋梗塞予防のためには早期から確実な脂質低下の治療が必要です。
【脂質異常症の治療】
脂質異常症の治療は大きく、食事療法、運動療法、脂質を下げる薬の3つに分かれます。どういった治療法でもよいのですが、大事なことは脂質を正常値にしっかりと下げ、それを継続することです。LDLの目標値はまずはLDL 140未満が目標です。
脂質異常症の一番の原因は、家族性の場合を除いて、ズバリ、脂質の摂り過ぎです。脂っこいもの、揚げ物、油がいっぱいのラーメン、など脂質摂り過ぎがないか食生活を見直してみてください。油物は食べていないと思われる方は、乳脂肪も動物性脂肪ですので、生クリーム、バター、チーズ、パンケーキ、ドーナツ、クロワッサン、シュークリーム、菓子パン、クリームいっぱいのコーヒー、など、一見油ものっぽくはないですが、動物性脂肪の摂り過ぎがないか振り返って見てください。ヨーグルトが健康にいいと聞いて毎日ヨーグルトを必ず1リットル以上は食べるという人がいて、脂質の値が極めて高く、ヨーグルトを適量に控えてみましょうと説明したら、正常範囲に治ったという例があります。乳製品や加工食品は脂っぽい食感でないためか脂質を摂っている意識が薄いことも多いので注意です。一方で、青魚などの魚系の油、植物系の油などは善玉コレステロールを上げる作用があり、青魚を生成したEPA製剤、DHA製剤などは医薬品にもなっています。色々な健康食品がありますが、いずれも摂り過ぎには注意です。
運動は、全身を使った有酸素運動が大事です。適度な運動であれば運動の種類にこだわり過ぎる必要はありません。大切なのは生活習慣として続けられることですので、ウォーキングでも何でもいいので、普段の生活で続けられる運動を選びましょう。理想の週の半分以上、天気がよい日は二駅くらいは歩く、休憩時間にオフィスの近辺を一周歩く、など日常生活の中で取り入れられる運動がよいでしょう。
【脂質異常症の薬】
脂質異常症の薬は、食事や運動で十分に脂質が下がらない場合に開始となります。脂質の薬は一度始めたら一生辞められなくなるのか?、いつまで飲めばいいのか?という質問に対しては、治療目標値をベースに考えます。LDLを140未満、心筋梗塞後の再発予防であればLDLを100未満といった値が目標です。具体的には、脂質の目標値をLDL 140未満とした場合、脂質の薬を飲み始めて、例えばLDLが180から140に下がったとします、すると、薬で下がっている効果の分は40前後と考えられますから、食事療法と運動療法でしっかりと脂質を下げ、例えば一年後にLDLが90くらいでしっかりと安定したとすれば、その後、薬を辞めたとしてもLDLは130前後に戻るだけですので、薬を辞めても大丈夫と判断します。下記にお茶の水内科でよく出る薬をまとめました。
・クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、悪玉コレステロールを下げるスタチンと呼ばれる基本薬です。心筋梗塞を明らかに防ぐ作用があり、特に飲めない理由がない限り積極的に使います。医者の中には動脈硬化予防目的のために自ら進んで飲み始める人もいるくらいです。スタチンは100人中1人くらいの頻度で筋肉痛や肝機能障害が出ることがありますが、残り99人は問題なしです。循環器内科医の中にはリバロ(ピタバスタチン)を好んで使う先生も多いです。以上、コレステロールの薬というとまずはスタチンという薬を使うが多いです。
・ゼチーア(エゼチミブ)、腸からのコレステロールの吸収を抑える薬です。コレステロールも中性脂肪も高い方で、上記の薬で十分に下がらない方に併用します。コレステロールの吸収を抑える薬というと抵抗感が少ない方が多く、ゼチーアを最初に使う場合もあります。
・ベザトール(ベザフィブラート)、主に中性脂肪を重点的に下げる作用です。主に中性脂肪だけ高い場合に使います。コレステロールと中性脂肪、両方とも正常値であることが勿論望ましいのですが、どちらか一方下げるのが大事かと言われたら、悪玉コレステロールを下げることが優先です。
・防風通聖散、脂肪の吸収を抑える漢方です。脂肪の吸収を抑え、脂肪の燃焼を助ける効果を期待して、月に一キロ程度のゆるやかな減量補助作用を期待して使います。運動せずに薬だけで痩せられる薬は世の中にありません。必ず適切な食事療法、運動療法が基本です。吸収されなかった脂肪が便として出ますので、脂肪便という少しベタっとした感じの便が見られますが、脂肪便が見られる人ほどより脂肪分を摂取している証拠になりますから、長期に続けていただくとより減量効果が期待出来る傾向があります。
他にもいくつかの脂質改善薬がありますが、このへんで割愛します。全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。