【後頭神経痛とは】
後頭神経痛(こうとうしんけいつう)とは、後頭部にある末梢神経の痛みです。筋緊張性頭痛、肩こりや首こりとも関係しています。急に頭が痛くなると、脳卒中じゃないかと心配されて来院されますが、命に関わる頭痛とそうでない頭痛を見極めるのも医師の仕事です。後頭部には頚椎から3本の末梢神経、大後頭神経(Greater Occipital Nerve: C2)、小後頭神経(Lesser Occipital Nerve: C2、C3)、第三後頭神経(Third Occipital Nerve: C3)、大耳介神経(Great Auricular Nerve: C2、C3)が走行しています。いずれも頭の後部を走行しており、耳よりも後ろ、頭の前側ではないことが重要です。ちなみに頭の前側、顔面は三叉神経(Trigeminal Nerve: V)、眼神経(Ophthalmic Nerve: V1)、上顎神経(Maxillary Nerve: V2)、下顎神経(Mandibular Nerve: V3)の3本が走行しており、三叉神経は脳神経であり、頭蓋内の精査が必要な場合が多いです。
【後頭神経痛の診断】
後頭神経痛の走行領域に一致して、ピリピリ、チクチク、ズキズキ、ビリビリという痛みを認める場合、後頭神経痛と診断します。国際頭痛分類第三版β版(ICHD-3β)「13.4後頭神経痛」のページに後頭神経痛の診断基準がありますので、下記抜粋します。
国際頭痛分類第三版β版→http://www.jhsnet.org/kokusai_new_2015.html
A、片側性または両側性の痛みであり、下記のB~Eの基準を満たす。
B、痛みは大後頭神経、小後頭神経、第三後頭神経のいずれか一つ以上の支配領域に分布する。
C、痛みは下記の特徴のうち2つ以上を満たす。C-1、数秒から数分間の疼痛発作を繰り返す、C-2、激痛、C-3、ズキンとするような、刺すような、鋭い痛み
D、痛みは、D-1、頭髪または頭皮への刺激で異常感覚や疼痛の増悪が認められる、D-2、神経の走行に添っての圧痛、または大後頭神経の出口部またはC2神経領域に圧痛点を認める
E、痛みは局所麻酔薬による神経ブロックで一時的に改善する。
F、その他の疾患ではない。
必要に応じて頭蓋内に異常がないことを確認するために頭部MRIを撮影することもあります。脳卒中、特に脳梗塞の多くは痛みというよりも上肢や下肢の麻痺、呂律障害、顔面の麻痺など、特に基本的には痛みがないことが多いです。「突然バットで頭を後ろから殴られたような痛み」「突然カミナリに打たれたような痛み」の場合には脳卒中、特にくも膜下出血を疑って緊急で頭部画像検査を行います。帯状疱疹でないことを確認するために頭皮に異常がないことを確認します。筋緊張性頭痛とは症状も原因も治療も予防法もオーバーラップする部分が大きいです。片頭痛に特徴的な症状を認める場合は、片頭痛として治療していきますが、片頭痛という自己診断は異なることも少なくなく、その場合、神経内科、頭痛の専門医にて確定診断をしてもらっています。
【後頭神経痛の治療】
後頭神経痛の治療は、三叉神経、肋間神経痛など、その他の神経痛などと同様に治療していきます。肩こりや首こりが背景にあることが多く、筋弛緩薬や血流改善なども適宜併用します。明らかに誘因となるストレス性の誘因があればそれを避けること、姿勢が悪ければ姿勢をよくすること、も重要です。
・ロキソニン(ロキソプロフェン)、ボルタレン(ジクロフェナク)、他、消炎鎮痛薬です。鎮痛作用とともに消炎作用を期待して使います。胃が荒れるのを防ぐため、ムコスタ(レバミピド)やガスター(ファモチジン)などの胃薬と併用します。
・メチコバール(ビタミンB12)、ビタメジン(B1、6、12)、ビタノイリン(B1、2、6、12)、ユベラ(ビタミンE)、神経の調子や末梢循環を整えるビタミン剤です。ビタミンB群、ビタミンEを使うことが多いです。劇的な効果がある訳ではないですが、特に副作用がなく安全です。
・葛根湯(かっこんとう)、風邪の初期に使う漢方というイメージかも知れませんが、主な作用は上半身の血流改善作用で、肩こりの改善にも有効です。
・ミオナール(エペリゾン)、テルネリン(チザニジン)、リンラキサー(クロルフェネシン)、筋弛緩薬です。筋肉の過剰な緊張をほぐします。ふらつきや転倒に注意します。
・デパス(エチゾラム)、ソラナックス(アルプラゾラム)、リーゼ(クロチアゼパム)、等、抗不安薬です。ストレス性の要因が強い場合は、不安、緊張を和らげる働きを期待して少量使うこともあります。デパスには筋弛緩作用もあります。依存性、耐性に注意します。
・リリカ(ピレガバリン)、サインバルタ(デュロキセチン)、他、神経痛治療薬です。痛みの神経の過剰な興奮を押さえる薬です。眠気やふらつきに注意しながら使います。
他にも、色々な漢方薬、神経の過剰な興奮を押さえる作用を持つ抗うつ薬、抗てんかん薬、麻酔薬、医療用麻薬、トリガーポイント治療などを組み合わせて使うこともあります。難治性の場合には痛みの専門の診療科、ペインクリニックに紹介して診てもらったりしています。
全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。