【腎盂腎炎とは】
腎盂腎炎(じんうじんえん)とは、腎臓の腎盂(じんう)というという場所に細菌感染を起こした状態です。主に頻尿、残尿感、排尿時痛等の膀胱炎症状が先行し、しばらく様子を見ているうちに、高熱、寒気、関節痛等の全身の感染症状が出現します。吐気を伴うこともあります。原因のほとんどは膀胱炎からの上行感染です。膀胱炎を起こした細菌が尿管と通って腎盂まで感染が広がった状態です。
【腎盂腎炎の診断】
まず尿検査にて、尿路感染症であることを確認します。背中の背骨の左右、肋骨脊柱角というところの叩打痛は腎盂腎炎に特徴的です。膀胱炎の先行、高熱、肋骨脊柱角叩打痛を認めれば臨床的に腎盂腎炎と診断します。膀胱炎との違いは主に発熱があるかないかです。必要に応じてエコー検査、さらに起因菌を調べ、どの薬が効くか、どの薬が効かないかを詳しく調べる目的で尿培養、薬剤感受性試験を追加することもあります。腎盂腎炎を放置すると、全身に感染、特に血流に乗って全身に菌が回る菌血症、敗血症、さらに敗血症性ショックという状態になると入院治療が必要になる場合もあります。入院が必要な場合は泌尿器科または感染症内科がある病院に紹介しています。
【腎盂腎炎の治療】
原因となる細菌に有効な抗菌薬で治療します。大腸菌を始めとする腸内細菌が原因の主な原因菌であると言われており、まずは大腸菌をターゲットに抗菌薬を使います。一般的に1日から2日程度で効き始め、3日から5日で治ります。なかなか治らない膀胱炎の場合、耐性菌、性感染症などの特殊な原因菌を疑って適宜原因菌の特定の検査を追加したりします。
・クラビット(レボフロキサシン)、シプロキサン(シプロフロキサシン)、尿路感染症によく使われる抗菌薬です。耐性菌の増加も言われていますが、毎回ちゃんと治っていればOKです。尿路に移行して抗菌作用を発揮するので、水分を多く摂取して、おしっこを我慢しないようにしましょう。
・グレースビット(シタフロキサシン)、アベロックス(モキシフロキサシン)、新し目のニューキノロン系抗菌薬です。新しい抗菌薬はイザという時のためになるべく使わずに残しておきたいのですが、上記抗菌薬がどうしても効かない場合などに耐性菌に注意しつつ使います。
・バクタ(スルファメトキサゾール、トリメトプリム)、バナン(セフポドキシムプロキセチル)、ニューキノロン系抗菌薬が耐性の場合、こちらの処方を使う場合もあります。
・ロセフィン(セフトリアキソン)、ゾシン(ピペラシリンタゾバクタム)、静注薬ですが、重症の腎盂腎炎に入院で使います。当時に尿培養、血液培養、薬剤感受性試験を行います。
詳しくは、日本感染症学会・日本化学療法学会「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015」等をご覧ください。
→http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jaidjsc-kansenshochiryo_nyouro.pdf
【腎盂腎炎の予防】
腎盂腎炎の原因は基本、膀胱炎からの悪化です。ですので、腎盂腎炎の予防は、膀胱炎の予防です。膀胱炎は何らかの理由で膀胱に細菌感染を起こすことが原因です。主に陰部周辺の常在菌である大腸菌などが原因菌と言われています。膀胱内に多少の雑菌が入ることがあっても、排尿とともに流し切れば膀胱炎までにならないと言われています。ですので、水分を多めに摂る習慣、おしっこを我慢し過ぎない、陰部を清潔に保つ、排便後は前から後ろに拭く、性交後はおしっこをしたり陰部を洗うようにする、生理中は適宜ナプキンを取り替える、下腹部を冷やさないようにする、などの膀胱炎を起こさないようにする習慣が大切です。水分をたくさん摂取することは膀胱炎の予防だけでなく、膀胱内の細菌を尿と一緒に流し切ることは膀胱炎の治療としても重要です。膀胱炎を繰り返す場合に、猪苓湯(ちょれいとう)、五淋散(ごりんさん)、五苓散(ごれいさん)などが効果がある場合があります。
全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。