【肺炎とは】
肺炎とは、主に細菌やウイルスなどの病原体が肺に感染を起こし、肺に炎症が起きている状態です。細菌性、ウイルス性、真菌性、アレルギー性、薬剤性など様々な原因がありますが、主に急性の細菌性の市中肺炎(Community Acquired Pneumonia: CAP)について説明します。肺炎はまず年齢によって全く予後が異なる病気です。65歳以上の高齢者の肺炎、特に誤嚥性肺炎は命に関わる病気であり、がん、心疾患に続いて肺炎は日本人の死因の3位です。一方で、65歳未満、特に合併症のない若い方の肺炎は通院治療で十分に治ります。以下、詳しく説明します。
【肺炎の検査】
肺炎の診断は、主に臨床症状と胸部レントゲン検査によって診断されます。臨床症状は主に、発熱、咳、痰、呼吸困難、呼吸をする時の胸の痛み、などです。風邪やインフルエンザで4日以上発熱続くことは少ないので、発熱が4日以上続く場合、4日以上解熱が見られない場合に肺炎を疑い、まず胸のレントゲンを撮影します。肺炎と診断されたら、肺炎の炎症の程度、肺炎を引き起こす原因菌の特定、合併症の有無の検査のため採血検査も行います。肺炎の原因菌は多岐に渡ります。肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、マイコプラズマ、クラミドフィラニューモニエ、クラミジアシッタシ、クレブシエラ、レジオネラ菌、インフルエンザ菌、モラクセラカタラーリス、緑膿菌などがあります。接触歴等で結核菌が疑われる場合は検査します。マイコプラズマ、百日咳、クラミドフィラなどは抗体検査が有用です。可能であれば肺炎を引き起こしている原因菌を特定し、原因菌に感受性のある抗菌薬と抵抗性のある抗菌薬を調べてから治療することが理想です。適宜原因菌特定と薬剤感受性の確認のため、喀痰培養、喀痰グラム染色、血液培養などの検査が可能であれば原因菌の特定に有用ですが、クリニックの外来レベルでは難しいことが少なくありません。肺炎の広がりと合併症の有無を詳しく評価するために胸部CTを適宜追加します。肺炎の原因として嚥下機能障害による誤嚥を伴う誤嚥性肺炎(Aspiration Pneumonia)、院内肺炎(Hospital Acquired Pneumonia: HAP)、医療介護関連肺炎(Nursing and Healthcare Associated Pneumonia: NHCAP)など別の型の肺炎、高齢者や免疫低下状態で入院治療が必要と判断される場合、結核や非結核性抗酸菌症(Non Tuberculous Mycobacteria: NTM)など特殊な肺炎を疑う場合は、呼吸器内科のある総合病院に紹介しています。
【肺炎の治療】
肺炎の治療は、肺炎を引き起こしている原因菌を特定し、その原因菌に効果のある抗菌薬を使うことが重要です。原因菌に対して効果がある抗菌薬は違うので、可能な限り原因菌の特定を目指します。まずは原因菌を経験的に想定し、ある程度広域に治療を開始することを経験的治療(Enperic Therapy)と言い、原因菌が特定され、原因菌をターゲットにした狭域な治療に切り替えること(De escalation)、特異的治療(Definitive Therapy)などと言います。ですので、原因菌の特定なしに肺炎に必ず効く抗菌薬というものは言えないのですが、よく使われる抗菌薬をまとめました。
・サワシリン(アモキシシリン)、オーグメンチン(アモキシシリンクラブラン酸)、ユナシン(スルタミシリン=スルバクタムアンピシリン)、ペニシリン系抗菌薬です。
・クラリス(クラリスロマイシン)、ジスロマック(アジスロマイシン)、マクロライド系抗菌薬です。
・クラビット(レボフロキサシン)、ジャニナック(ガレノキサシン)、アベロックス(モキシフロキサシン)、グレースビット(シタフロキサシン)、ニューキノロン系抗菌薬です。
・メイアクト(セフジトレンピボキシル)、フロモックス(セフカペンピボキシル)、セフェム系抗菌薬です。
・ダラシン(クリンダマイシン)、リンコマイシン系抗菌薬です。
・ユナシン注(スルバクタムアンピシリン)、ロセフィン注(セフトリアキソン)、ゾシン注(タゾバクタムピペラシリン)、注射薬です。お茶の水内科には点滴設備がないため点滴が必要な肺炎と判断した場合は呼吸器内科のある総合病院に紹介しています。
・ロキソニン(ロキソプロフェン)、カロナール(アセトアミノフェン)、メジコン(デキストロメトルファン)、ムコダイン(カルボシステイン)、解熱薬、鎮咳薬、去痰薬です。症状改善のために適宜併用します。
全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。
【風邪に抗菌薬を使わないことが将来的に大切という話】
風邪に抗菌薬は無効という話は重要です。なぜ風邪に抗菌薬は無効かと言うと、風邪はウイルス感染症であり、抗菌薬は細菌感染症に対して効果があり、抗菌薬はウイルス感染症には効かないからです。風邪に抗菌薬は効かないだけで特に害もないなら念のため出したほうがいいのではと思われるかたもいるかも知れませんが、抗菌薬の乱用は耐性化と言って後々本当に抗菌薬が必要な時に困ることになります。抗菌薬を乱用すると耐性菌と言って、抗菌薬が効かない菌が出てきてしまいます。赤ちゃんの頃から抗菌薬を使い過ぎると、耐性菌ばかりになってしまい、細菌性の肺炎を起こして本当に抗菌薬が必要な時に使える抗菌薬がなくなってしまいます。「熱が高いから抗生物質」「熱が下がらないから抗生物質」という考え方も間違いです。抗菌薬が必要な場合は細菌感染症であり、細菌性の扁桃炎、細菌性の副鼻腔炎、細菌性の気管支炎、細菌性の肺炎など細菌性の感染症の場合のみです。昔は日本の衛生状態もよくなく、発熱=多くは細菌感染症だったのかも知れません。細菌性の感染症には抗菌薬は効果的ですので、熱が出たら抗生物質という間違ったイメージが付いてしまったのかも知れません。今の親世代、その上の世代に多い考え方で、親に病院に言って抗生物質をもらってくるように言われて来ました、という人がたまにいますのでこのように説明しています。風邪はウイルス感染症であり、発熱があるかどうか、熱が下がらないかどうかと、抗菌薬が必要であるかどうかは関係ありません。また、風邪の症状が酷くなって病院に受診するのは多くの場合だいたい風邪の3日目くらいであり、風邪というのはだいたいそれくらいの時期をピークに症状は自然と改善に向かうものであり、ちょうど3日目くらいに病院に来て抗菌薬が出されると、その後症状の改善を「抗菌薬を飲んだ効果」「抗菌薬を飲んだから風邪が治った」と間違って認識してしまうことがよくあります。風邪は自然治癒することが特徴のウイルス感染症ですので、特に病院に来なくても何も薬を飲まなくても構いません。風邪症状で病院に来る意味は、一見風邪に見えるけど風邪ではない治療が必要な疾患をきちっと診断するためです。風邪をこじらせて二次的な細菌感染症を予防するために、抗菌薬を念のため出しておくことには予防的な意味があるんだと言われる方もいますが、いくつかの研究で予防的な効果もなかったことが証明されていますので、念のため悪化しないように予防的に抗菌薬を飲んでおこうというのも実は正しい抗菌薬の使い方ではありません。それでも、念のため、今回どうしてもと言われれば処方することは可能です。が、アルコール性の肝硬変でビール一杯飲んだからすぐに肝硬変になる訳でないように、肺癌で煙草を一本吸ったからすぐに肺癌になる訳ではないように、一回抗菌薬を飲んだからと言ってすぐに耐性化してしまう訳ではありませんが、安易に抗菌薬を飲むということが習慣付いてしまうことが問題であり、とりあえず抗菌薬という間違った習慣が何度も繰り返されると、耐性化によって本当に抗菌薬が必要な時に効く抗菌薬がなくなってしまい、将来的に自分が困ることになるということは覚えておいてください。熱が出たから抗生物質、風邪を引いたから抗生物質という間違った習慣を見直すことが大事であり、将来本当に抗菌薬が必要になった時に使える抗菌薬を取っておくということは将来の自分のためにも大切なことです。もし抗菌薬を間違って使っている人が周りにいたら正しい抗菌薬の知識を教えてあげましょう。